僕はただ静かにDQMSLをしたいだけなんだ。⑨
(表紙、ストモン様より)
朝食を食べ終えた僕達は次なる目標、そう、ヴァルハラーとその村を襲った者を追うべく旅の支度を整えていた。その傍らで“ 呪いの泉に咲く伝説の花”ことフラワーゾンビと、その奇跡の力で復活を遂げたヴァルハラーの雰囲気が、そうすでに新婚夫婦、みたいな。目には見えないけれど、ピンクというか、ハートというか、甘々の薔薇色な空間にむせ返りそうだった。
「がいこつよ、この先の旅は厳しいものになるが気を付けて行くんだぞ」
「此方の事は私に任せて、しばらくお傍にいて健康状態を診ていたいから♪*゚」
「しばらくと言わず、何百年先も貴女が傍にいてくれたらどんなに幸せか」
「まあ...♪*゚」
ヴァルハラーがフラワーゾンビの手に手を重ねると、2人は熱い眼差しを絡み合わせる。フラワーゾンビの濡れた艶やかな唇からふぅっとため息がもれた。ヴァルハラーは優しく手を握りしめる。と、見るに見兼ねたがいこつが割って入った。
「あーゴホンゴホン!そういうのは俺達がいってからにしてくれよ...」
「あの、がいこつの親父さん、お世話になりました。しばらくがいこつと旅を続けますが、」
「おお、がいこつの事をよろしく頼むぞ!」
「あ、いえいえ、僕の方が多分がいこつに沢山迷惑をかけるので」
「ん、そうか?キミはそんな強大なチカラを『あー!親父!それじゃまたな!元気でな!!』
「?」
親父さんが僕に何か言われかけた時、ゴーストとナイトウイプスに腕を掴まれズルズルと家の外に出されたのだ。がいこつの焦りっぷりが怪しい。
「何すんの、せっかく親父さんお話してたのに」
「マスターごめんね!」
「時が来たら、きちんと私達からご説明致しますから。さ、村を出ましょう!」
「パパさんバイバーイ!」
「御達者でいらしてください」
「誤魔化された...」
釈然としないけど、小さい事は僕は気にしないタチなので、まあいいか。その話題はこのままにしとこ。
それで村は出たはいいけど、どこに向かって歩けば良いのか。そんな事を考えてるとナイトウイプスが僕の目の前にフヨフヨ降り立ってきた。ちょっとばかり恥ずかしそうな顔をして、しっぽをフリフリしている。
「ん、どしたの?」
「あの、マスター、これからの行先は少しばかり私に心当たりがあるので、着いてきて頂けませんでしょうか?」
「え、心当たり!?がいこつの親父さん襲ったヤツに心当たりあるの!?」
「ええ、まあ、確信は持てませんが」
コホン、と咳払いをして改めて僕とナイトウイプスは向き合った。
「ヴァルハラー殿が受けたパニッシュメントって技ですが、もしならこの世界ではパニッシュメントの使い手が限られております」
「実は昔付き合っていた女性がパニッシュメントの使い手だったので、まさかとは思いますが」
「この足で幻魔城を目指して彼女に会って直接真実を確かめたいのですが、宜しいでしょうか?」
ん?幻魔城???
「えと、んーと、それってナイトウイプスの元カノに会いに行くってこと?」
「ナイトウイプスの元カノ、幻魔王のマガルギっていうんだよ!」
「昔の話ですが、彼女とは少しばかりの行き違いがあって疎遠になったのです。その頃私は忙しくて連絡取れなくなり、それ以来消息が掴めなくて」
幻魔王?マガルギ???ちょっと頭の中整理させて。僕はクラリと軽く目眩がした。
「ま、待って!ナイトウイプスとあの有名なマガルギが付き合ってたの???」
「流石マスターですね、彼女の事を存じ上げておりましたか」
「知ってるも何も、ゲームでもめちゃくちゃ強い立ち位置の人じゃない!?」
「はい、強い所も彼女の魅力の一つでした」
あー、話がまるで噛み合っていないけど。ナイトウイプスは顔を上げ目の前の森の向こうに視線を移している。遠くに幻魔城があるのかな。これ以上の有力な手がかりがないみたいだし、ナイトウイプスの元カノに会ってみたいし。内心はかなり興味津々。向かいながらマガルギについて詳しく聞かなきゃな。逸る気持ちを抑えつつ、僕達は幻魔城に向かって進み始めるのだった。
【幻魔城】
「来る、感じる、強大な力と、懐かしかしく、愛しい人」
「でも来ないで、私はあの頃の私じゃない」
「飲み込まれる、闇の力に」
続く。