僕はただ静かにDQMSLをしたいだけなんだ。⑧
がいこつの親父さんがフラワーゾンビの歌声によって全快し、そして一夜が明けた。僕は久しぶりに緊張感が解けてゆっくり眠っていたというのに、早朝4時からがいこつに叩き起されて、村の丘で何故か剣の素振りをしている。まだ辺りは薄暗い。アニマルゾンビすら1匹も起きていない。
「マスター、そこでジャンプ!はいっ、そのまま切り込んで!」
「ぜえぜえ...」
「おい、まだ始めて30分だぞ、息があがるの早い!」
「な、なんなのー!いきなり起こされて剣術の修行なんて!聞いてない!」
「あ?グズグズ文句を言うな。ほら、マスターこれから新しい剣技、絶・六刀流教えるぞ!」
「あのさ、張り切るのは構わないんだけど、僕は腕が六本も無いんですけど...」
やたらとピリピリしとるな、がいこつ。親父さんの快気祝い中も小難しい顔をして独り言言ってたし。親父さんとフラワーゾンビがベタベタイチャイチャしてるの見たくないからじゃないかと思ってたけど、違うみたい。
僕は意味が解らずがいこつに激しくしごかれている中、多分がいこつと同じ事を考えていた。がいこつの親父さんと、この村を襲った奴のこと。100年前の話とは言え、わたぼうがこの世界が変化した事と何か関係があるのか、それともないのか。そもそも今回の元凶は現在生存しているのか。もしこの先、その元凶と対峙した時、僕達はどうするのか。汗が目に入り、ぐいっと手で拭うと僕は周りを見渡した。村を覆う林から朝日が顔を見せ、冷たい風が身体を通り抜ける。身体を覆う汗のせいか少し寒い。
「マスター、多分、オレと同じ事考えてると思うけど、」
「う、ん、」
「オレ、親父をあんな目に合わせたヤツを追いたいんだ、そして」
「そいつに会って、何故親父さんと村を襲ったのか、知りたいんでしょ?」
「ああ」
僕とがいこつの動きが止まる。僕は呼吸を整えながらがいこつの傍に駆け寄った。
「僕もね、同じ事考えてたよ」
「...、」
「唐突にこの世界に来て、君達と何となく旅をしててたけど」
「この先はさ、ちょっと目的持って旅をしたいなと思ってたり」
「うむ」
「でも、僕達が探している奴はけして良い奴じゃないかもしれないし、危険も伴うけど」
それでも、それでもそいつを追いかける事に今は意味があるんじゃないかと思うんだ。だから、がいこつは僕に色々教えてくれるんだなと思うと自然と笑みが零れてくる。
「がいこつ、言葉が足りなさすぎ!」
「すまん」
「焦るのもどうかと思うけど、せっかく始めたから絶・六刀流最後まで教えて、」
僕は静かに瞼を閉じて、改めてがいこつに向かって剣を構える。覚悟は出来ていた。その刹那、指先から黒いような、紫のような、濁ったオーラが全身から湧き出て、辺りを暗く包み込む。ちょっと生臭い。
「マ、マスター、それは...!」
「きゃー!がいこつ、僕の身体から変なの出てるんだけど!!!なにこれ~!」
「それは魔王クラスのモンスターでしか操れないと言われている『魔素』と言われているもの」
「マ、マソ???」
「ひとたび魔素を浴びせられた者は、光の波動で消さない限り、アンデット系の特技を効果的に受けてしまうんだ」
「驚いた。マスターから魔素が出るとはな、流石としか言えん」
「この先それは必須級で役に立つから、何時でも出せるようにスタンバイしとけよ」
「え、そんな自由に収納出来るんかな...」
辺りが紫暗くモヤがかかっている。空気も生暖かいままだった。よし。試しに以前習得したナイトメアソードをがいこつに向かって放ってみるか。
「ナイトメアソード!(掛け声)」
ブォン!
「うおっ!?ア、アブねえじゃねぇか!」
剣先が普段の数倍も鋭さを増して、がいこつに放たれた。威力が増している剣の波動を避ける事が精一杯であるがいこつがこっちを見て怒ってる。
これが魔素の効果。その強大な威力に口をポカンと開けてしまった。右腕が小刻みに震える。少しばかり動揺は出てしまったけど、上手く扱えれば僕の最大級の武器になる。もっともっと頑張って、手足のように魔素使いになりたい。って密かに思ったりした。
「がいこつー!マスター!朝ごはんだよー!」
「お二人共、朝から元気ですね」
ヴァルハラーの家からゴーストとナイトウイプスの呼ぶ声が聞こえる。僕はハッとして振り返り、走り出す。朝ご飯を食べたらそうだな、準備を整えて旅に出る。僕は流行る心を押し込めながら家に向かった。
「がいこつが言ってたんだけどさ、マスター魔素出せるようになったみたいだよ」
「いよいよ人間離れしてきましたね」
「ゾンビを束ねる者のこと、いつ話そうかねえ」
続く